2022.9.24改訂(2010.4.4)
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概要
高分子、例えばポリ塩化ビニルであれ、ポリ乳酸であれ可塑剤を入れなくては、硬くてボロボロして使いものにならない。
HSPは古くからポリマー関係に使われてきたこともあって、可塑剤関連のオフィシャルなHSP値は充実している。
従ってGCやHPLCの実測値と比較すると、かなり精度良くリテンションを推算できることがわかる。
さらに具体的にニトリルーブタジエン・ゴム(NBR)の可塑剤を、HSPと分子体積の両面から評価してみた。
大きな分子のものを使うにしても、あまりNBRとHSP距離が短いと、やはりブリードアウトしてしまいそうである。
内容
GC ,HPLC 高分子用可塑剤 のデータを島津から入手した。これはフタル酸系の可塑剤だ。
これをHSPを使って解析してみた。
データをコピペして最新のHSPiPでやってみよう。
テーブル
Hcode | name | name | BP |
300 | DMP | dimethyl phthalate | 556.85 |
258 | DEP | diethyl phthalate | 567.15 |
59 | BBP | Benzyl Butyl Phthalate | 643.15 |
221 | DBP | dibutyl phthalate | 613.15 |
5540 | DOP | Bis (2-ethylhexyl)phthalate | 657.15 |
305 | DNOP | dioctyl phthalate | 657.15 |
HPLC のシミュレーションでは、オクタデカン(OD)からの距離を分子体積で割ったものが小さくなるとリテンション・タイムが長くなるのが再現された。
HCode(Hansen Code)が5540(Bis (2-ethylhexyl)phthalate)のものはオフィシャルのHSP値が無いため推算値であるが、この結果から見るとHSPの推算値は良好のようである。
対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を複数描けばRTがどのくらいかを得る事ができる。[詳しい分子の描き方はこちらを参照してください](https://www.pirika.com/Education/JP/YMB/Tools/Helper/Draw2Smiles.html)。
GC のリテンション・インデックス(GCRI)シミュレーションでは5540は少し他のものより線の上になった。
沸点の推算値があまり良くないのかもしれない。
Ver.4での改訂の時には取り込みたいと思う。
このように、GCとHPLCのペアのデータが提供されるとシミュレーションの精度はどんどん高くなる。
そして正しいHSP値が得られれば、その可塑剤がどのような樹脂と良く混ざるか、溶解性をあげるにはどのような構造にすれば良いかの知見が得られる。
他の可塑剤についても提供してくれる所があれば良いのだが。
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
HSPiPの中にあるポリマーを選んで、これらが可塑剤とどのような位置関係にあるか3次元表示してみる。
球をクリックすればポリマーの名前か可塑剤の名前が現れる。
ポリマーは青い球、可塑剤は赤い球で現してある。
あるポリマーに近い可塑剤はどれか、実際に試してみていただきたい。
![](https://www.pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/images/Plasticizer.jpeg)
2010.11.27 追記
ニトリルーブタジエンゴムのHSPを決める時に可塑剤が含まれていたので,それについて記載する。
この時の評価はパッキンとしての評価ではあるが,非常に多くの溶媒で評価が行われている。
その際に,いくつかの溶媒で,距離が短いのに膨潤しないという溶媒があった。
ステアリン酸ブチル,リノレン酸,バルミチン酸などがDist/Rが1以下なので,HSP的には溶解する方向である。
ところが◎,◯,B 評価であるので問題なくパッキン用の可塑剤として使える。
テーブル
Hcode | name | NBR | Score | Dist | Dist/R | Vol |
223 | butyl stearate | ◎ B | 0 | 11.33 | 0.81 | 399.3 |
305 | dioctyl phthalate | ◎E | 9.46 | 0.68 | 398.5 | |
603 | octadecanoic acid | ○ D | 12.18 | 0.87 | 320.4 | |
545 | oleic acid | ◎, B, C | 13.06 | 0.94 | 319.7 | |
7334 | linoleic acid | ○B | 0 | 12.38 | 0.89 | 311.2 |
7331 | hexadecanoic acid palmitic acid | ◎ | 0 | 12.40 | 0.89 | 290.6 |
7740 | 1-pentylnaphthalene | C | 11.07 | 0.80 | 206.1 | |
7309 | dicyclohexylamine | C | 11.65 | 0.84 | 198.2 | |
528 | glyceryl triacetate | ◎ | 0 | 12.22 | 0.88 | 189.0 |
219 | dibutyl ether | △ C | 12.60 | 0.91 | 170.4 | |
267 | diethylene glycol monobutyl ether | C | 12.58 | 0.90 | 170.4 | |
8064 | alpha-Terpineol | ◎ | 0 | 12.07 | 0.87 | 165.2 |
1197 | Dipentene dl-Limonene | ◎○ B | 0 | 11.94 | 0.86 | 162.9 |
900 | alpha-pinene | ◎○B | 0 | 12.31 | 0.88 | 159.0 |
618 | 1,2,3,4-tetrahydronaphthalene | ○△D | 9.64 | 0.69 | 136.7 | |
268 | 2-(2-ethoxyethoxy)ethanol | ◎B | 0 | 12.85 | 0.92 | 136.3 |
443 | diisopropyl ether | ◎ | 0 | 12.94 | 0.93 | 135.8 |
1089 | Picric Acid (2,4,6-Trinitrophenol) | ○ | 0 | 10.70 | 0.77 | 130.0 |
何故そうなるかは,分子体積(Vol)が大きいのでポリマー中に浸透できないのではないかと書いた。
そうした化合物の中にDOP,ジオクチルフタレートという,典型的な可塑剤も含まれる。
可塑剤と言うものは,ポリマーの中に安定的に存在し,溶出(ブリードアウト)しない事が望ましい。
ポリマーの中に安定的に存在するのであればHSPベクトルが近い,HSP距離が短い事が好ましい。
さらにそれが溶出しない為には,分子が大きくて,高分子中に存在する自由体積以上である事が好ましい。
実際のNBRの溶解度試験の溶媒中にある,可塑剤,難燃剤のデータから見てみよう。
テーブル
Hcode | Name | NBR | Score |
Dist | Dist/R | Vol |
223 | butyl stearate | ◎ B | 0 |
11.33 | 0.81 | 399.3 |
8153 | Decanedioic acid, diethyl ester | × | 1 |
11.70 | 0.84 | 269.4 |
16596 | Dioctyl decanedioate | × | 1 |
12.71 | 0.91 | 469.2 |
221 | dibutyl phthalate | ×E | 1 |
6.59 | 0.47 | 267.2 |
305 | dioctyl phthalate | ◎E | 9.46 | 0.68 | 398.5 | |
7334 | linoleic acid | ○B | 0 |
12.38 | 0.89 | 311.2 |
7331 | hexadecanoic acid palmitic acid | ◎ | 0 |
12.40 | 0.89 | 290.6 |
603 | octadecanoic acid | ○ D | 12.18 | 0.87 | 320.4 | |
– | 中略 | |||||
20645 | Ethanol, 2-butoxy-, phosphate | × | 1 |
10.17 | 0.73 | 398.4 |
641 | Tri-n-Butyl Phosphate | ×E | 1 |
10.31 | 0.74 | 274.0 |
653 | Tricresyl Phosphate | △×E | 1 |
3.82 | 0.27 | 316.2 |
Dist/Rは全て1以下であるのでHSP的にはNBRを溶解する方向だろう。
そして分子体積的には最小の物でもジブチルフタレートの267.2で,通常のいわゆる溶媒のサイズの約倍程度の分子サイズをもつ。
HSP距離が短く分子サイズが300以下では溶解する(赤の領域)。
距離が長めで分子が大きければ溶解まではいかない(青の領域)。
ジオクチルセバケートだけが例外になる。
こうした可塑剤は環境ホルモンとしても疑われる為,さらに溶出しないように高分子量化するなどの研究が進んでいる。
しかし,分子サイズだけではなく,Dist/Rの指標で0.85以上,1以下の溶解度パラメータに設定するのがポリマーに溶解し,かつ溶出しない可塑剤の設計に重要と考えられる。
2012.5.7
HSPiPの例題にあるネオプレン・ゴムを見てみよう。
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
赤色が良溶媒で、青色が貧溶媒を示している。ハンセンの溶解球、Sphereを2つ探索した結果を示している。
良溶媒の領域に青い溶媒が入っているのがお分かりいただけるだろうか?
その青い球をクリックしてどんな溶媒だか確認して頂きたい。
この表示は溶媒の球の大きさを、分子体積で表現してある。
この大きな青い溶媒はHSP的にはポリマーをよく溶解する溶媒である。
しかし分子のサイズが大きいためポリマーへ浸透できずに溶解しないと解釈することができる。
逆に可塑剤はよく溶解して、かつ、分子が大きくブリードアウトしないという性質が求められる。非常に良い例題だ。
2012.5.31
ブリードアウトしない可塑剤の設計に、オリゴマータイプの可塑剤が設計されている。
あるHSPiPユーザーから、そのようなポリマーとオリゴマーのシステムの場合、HSP距離だけで評価するのではなく、ポリマーの溶解球とオリゴマーの溶解球の球同志の重なりで評価したいという相談があった。
試しに球の重なりを計算するHTML5のプログラムを作ってみた。
海外の可塑剤の設計者から、HSPに加えて粘度の温度依存性を知りたいという要請があった。
HSPiPにも25度での粘度を推算する機能は付いているのだが、もっと低温で粘度の低い可塑剤を設計したいらしい。
まだ余り精度が出ていないが、無いよりはまし、なので作ってみた。
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