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化学工業社、化学工業2010年4月号から再構成:PolymerEn.xlsx
ページから新しいものを分離して別にまとめた。(2026.9.8)
リード
ある種のポリマー,例えば塗料用のポリマーは、重合の際に溶液重合され,貧溶媒を使って再沈され,製品となる際にも溶液の形で利用されるものがある。溶剤型接着剤も、ポリマーが完全に溶解している時に接着強度が最大に成る事が知られている。そのような分野ではポリマーがどのような溶媒に溶解し,どのような溶媒に溶けないかを予測する事は非常に重要になる。また近年のオゾン層破壊問題,地球温暖化問題からも,環境に悪影響を与えないポリマーの溶媒の探索は重要度が増している。そうしたポリマーの溶解性の予測に対しては,Hansenの溶解度パラメーター(HSP)法が有効であることが示されてきた。本稿ではこのHSPを用いた高分子材料の溶解性評価方法を解説する。
1.緒言
溶解度パラメーターというとHildebrandのSP値が著名である。 様々な化合物の値がデータ集などに収録され、Smallの式1)、沖津の式2)などの原子団寄与法による推算式が開発されている。Hansenの溶解度パラメーター(HSP)は1つの物質(特にポリマー)が他の物質に溶解して溶液になるかどうか、を予測する手段としてチャールズ・ハンセンによって開発された。彼の著書3)には1000を超える化合物のHSP値が収録されている。推算式としてはStefanis-Panayiotou式4)が著名である。どちらのSP値も,似た物は似た物を溶かすというアイデアに基づいている。ここでいう“似ている”というのは、一つの分子が自分自身と相互作用するのと同じように他の分子と相互作用している状態と定義される。Hansenの母国、デンマーク(健康と環境問題を主導する国)では,1970年代,油絵用の揮発油が画家に有害であるとして使用が規制された。その代替溶媒を探索するのに,HSPの技術が使われた。ポリマーに関する溶解性については、他の溶解度の推算法と比べ際立って精度の高い方法である。
2. 溶解度パラメーター
2.1. 溶解度パラメーターの原理
様々な溶媒やポリマーのHildebrandのSP値はデータベースやハンドブックに記載されている。しかし、HildebrandのSP値を用いてポリマーの溶媒探索をした場合には、その的中率は60%以下とされている。どうしてそのように低い値になるのか?というと、HildebrandのSP値は蒸発潜熱が近いものは同じような値になってしまうからである。例えば下図でニトロエタンとエタノールは蒸発潜熱と分子体積がほぼ同一なので、HildebrandのSP値で見るとほとんど同じ値になってしまう。

Fig. 1 Hansenの溶解度パラメーターとHildebrandのSP値の概念図
それに対してHansen Solubility Parameter(HSP)はSP値を分散(dD)、極性(dP)、水素結合(dH)の3つに分解し、3次元のベクトルとして捉える。Fig. 1から明らかなように、ニトロエタンとエタノールはベクトルの方向は非常に異なっている。そして、このベクトルが似たものがお互いを溶かすという原理で、Hansenの方法の的中率は非常に向上する。
さらにHansenの溶解度の理論では、相互作用半径(R0)というものを導入して、的中率を向上させている。

これはポリマーの溶解を扱った事があれば、感覚的によくわかる事ではあるが、ポリマーには色々な溶媒に溶解しやすいポリマーと、フッ素系高分子のように溶ける溶媒がほとんどないポリマーがある。つまり、溶媒のベクトルがポリマーのベクトルと多少離れていても溶解するもの、ほとんど一致していても膨潤ぐらいしかしないもの、その中間に分かれる。そこで、ある溶媒のHSPベクトルが、その半径に入れば溶解する、半径の外なら溶解しない、そうした最大の半径、相互作用半径(R0)をポリマーごとに定める。具体的には、溶解性を検討するのに必要なパラメーターは次のように定める。HSPが既知の溶媒を使って、ポリマーの溶解性試験を行い、溶解した溶媒の組と溶解しない溶媒の組を決める。溶解しない場合には膨潤性の大小でも、分散性の大小でもよい。そして、溶解した溶媒のHSPベクトルがすべて球の内側に来るような、また溶解しない溶媒のHSPベクトルはすべて球の外側に来るような、最大の球を定める。(場合によると、いくつかの溶媒は例外となることもある。)そして、この球の半径を相互作用半径(R0)と呼び、球の中心点をそのポリマーのHSPベクトルと定める。これらのパラメータが求まれば、任意の溶媒に対して、ポリマーとのHSP距離を計算し、それが相互作用半径よりも小さければ溶解する、大きければ溶解しない確率が非常に高いと判断する事ができる。
例えばポリスチレンのHSPは[18.5,4.5,2.9]で相互作用半径は8である。この球の内側に来る溶媒としては,クロロベンゼン[19.0.4.3.2.0]HSP距離=1.36,トリクロロエチレン[18.0,3.0,5.3] HSP距離=3.00,トルエン[18.0,1.4,2.0] HSP距離=3.34である。こうした情報があると,例えば,インスタント食品の容器で問題になった,防虫剤成分のポリスチレン容器に対する移り香は次のように説明される。防虫剤の成分、パラジクロロベンゼンのHSPは[19.7,5.6,2.7]なのでポリスチレンからのHSP距離は2.65になる。すなわち,パラジクロロベンゼンはポリスチレンに非常に溶解しやすい事がわかる。このようにHSPを使うとHSP距離の大小で溶解性を判断できるので非常に簡便である。
古い記述
そして、そのベクトルが似たものがお互いを溶かすという理論で、的中率は非常に向上する。さらにHansenの方法は相互作用半径(R0)というものを導入して、さらに的中率を向上させる仕組みを持っている。
これはポリマーを扱った事のある人なら感覚的によくわかる事だと思うが、ポリマーには色々な溶媒に溶解しやすいポリマーと、フッ素系高分子のように溶ける溶媒がほとんどないポリマーがある。
つまり、溶媒のベクトルがポリマーのベクトルと多少離れていても溶かしたり、ほとんど一致していても膨潤ぐらいしかしないもの、その中間に分かれる。そこで、ある溶媒のHSPベクトルが、その半径に入れば溶解する、半径の外なら溶解しない、そうした最大の半径、相互作用半径(R0)をポリマーごとに定める。
具体的には、溶解性を検討するのに必要なパラメーターは次のように定める。HSPが既知の溶媒を使って、ポリマーの溶解性試験を行い、溶解した溶媒の組と溶解しない溶媒の組を決める。溶解しない場合には膨潤性の大小でも、分散性の大小でもよい。そして、溶解した溶媒のHSPベクトルがすべて球の内側に来るような、また溶解しない溶媒のHSPベクトルはすべて球の外側に来るような、最小の溶解球を定める。(場合によると、いくつかの溶媒は例外となることもある。)
そして、この球の半径を相互作用半径(R0)と呼び、球の中心点をそのポリマーのHSPベクトルと定める。これらのパラメータが求まれば、任意の溶媒に対して、ポリマーとのHSP距離を計算し、それが相互作用半径よりも小さければ溶解する、大きければ溶解しない確率が非常に高いと判断する事ができる。
そこで、溶媒とポリマーのHSP距離を計算し、それが相互作用半径よりも小さければ溶解する確率が非常に高くなる。
例えばポリスチレンのHSPは[18.5,4.5,2.9]で相互作用半径は8である。この球の内側に来る溶媒としては,クロロベンゼン[19.0.4.3.2.0]HSP距離=1.36,トリクロロエチレン[18.0,3.0,5.3] HSP距離=3.00,トルエン[18.0,1.4,2.0] HSP距離=3.34である。こうした情報があると,例えば,インスタント食品の容器で問題になった,防虫剤成分のポリスチレン容器に対する移り香は次のように説明される。防虫剤の成分、パラジクロロベンゼンのHSPは[19.7,5.6,2.7]なのでポリスチレンからのHSP距離は2.65になる。
すなわち,パラジクロロベンゼンはポリスチレンに非常に溶解しやすい事がわかる。このようにHSPを使うとHSP距離の大小で溶解性を判断できるので非常に簡便である。
ポリマーのIPNを設計したい場合などは、ポリマー同士の球がどのくらい重なり合っているかを調べる必要がある。
ポリマーの相互作用半径が重なるものはポリマー同士も相互溶解しやすい。
相溶化剤を設計したいなら片方の球に溶解する部分ともうひとつの球に溶解する部分とをひとつの分子に持たせる必要がある。
エポキシ系やウレタン系の接着剤などを検討する場合には注意が必要である。
エポキシ基やウレタン基はどちらかというと極性が高く、それ以外の部分は極性の低いポリオールであることが多い。
そのようなミクロ相分離構造をとるポリマーの場合、オーバーオールのHSPを考えても溶解性は理解出来ないことがある。
V.3.1.x以降に搭載のDouble Spheresの機能を使うと、両方の部分構造に相当する球が見つかる。相溶化剤やオリゴマーなどにも適用することをおすすめする。
2010.12.2 追記
化学工業の連載第2回でポリマーの溶媒探索に関してPMMAの解析の失敗例を説明した。
これは溶媒の多様性が足りなく、限られた溶媒だけでHSPを決めると正しい答えにならないよ、というものだ。今回、データを継ぎ足して、新しくPMMAのHSPを決め直してみた。
求まったHSPは[17.7, 6.7, 6.2]で相互作用半径は8.96になった。
使った溶媒は57種類。溶解しないとされる溶媒で、緑色の球の中に入ってしまった例外が4点あるが、53/57=93%の確率で溶解する、しないを判定できるという結果になった。
PMMASS.html
PMMADS.html
Ver.3.1.xのDouble Spheresの機能を使うと、
[16.7, 9.7, 8.4] 半径7.24 の球と
[18.4, 3.2, 2.9] 半径4.22の球があり、例外となる溶媒は2つある事が解る。
これは、これできれいな結果ではあるが、今回強調したいのは、ポリマーハンドブックによるとPMMAはエタノール/水の混合溶媒に溶解するという記載がある点だ。
PMMAは透明性の高い樹脂で、水族館の水槽などにも使われている。これがエタノール/水の混合溶媒に溶けるという現象をHSPを使ってさらに解析してみる。
| water | EtOH | dDm | dPm | dHm | Ra | HildebrandSP |
| 100.0 | 0.0 | 18.1 | 17.1 | 16.9 | 14.939 | 30.1 |
| 90.0 | 10.0 | 17.9 | 16.3 | 17.2 | 14.543 | 29.7 |
| 80.0 | 20.0 | 17.6 | 15.4 | 17.4 | 14.202 | 29.4 |
| 70.0 | 30.0 | 17.4 | 14.6 | 17.7 | 13.925 | 29.0 |
| 60.0 | 40.0 | 17.2 | 13.8 | 17.9 | 13.710 | 28.7 |
| 50.0 | 50.0 | 17.0 | 13.0 | 18.2 | 13.565 | 28.3 |
| 40.0 | 60.0 | 16.7 | 12.1 | 18.4 | 13.489 | 28.0 |
| 30.0 | 70.0 | 16.5 | 11.3 | 18.7 | 13.484 | 27.6 |
| 20.0 | 80.0 | 16.3 | 10.5 | 18.9 | 13.550 | 27.2 |
| 10.0 | 90.0 | 16.0 | 9.6 | 19.2 | 13.687 | 26.9 |
| 0.0 | 100.0 | 15.8 | 8.8 | 19.4 | 13.891 | 26.5 |
| dD | dP | dH | Hildebrand | |||
| EtOH | 15.8 | 8.8 | 19.4 | 26.5 | ||
| Water | 18.1 | 17.1 | 16.9 | 30.1 | ||
| PMMA | 17.7 | 6.7 | 6.2 |
水とエタノールの混合比率を変えながら、混合溶媒のHSP、[dDm, dPm, dHm]を上の表のように準備する。
そして、今回求めたPMMAのHSPを用いて溶媒からの距離(Ra)を計算する。
グラフに示すように、HSP距離はEtOHの分率が70%位の所で最小になる。
それでもHSP距離は13以上で、相互作用半径(8.96)よりも長いので常温では溶解しないと考えられる。
温度を変えたHSPで検討すると、エタノールの比率は50%で最小になり、HSP距離はさらに短くなる。温度の効果についてはさらに検証が必要と思われる。
また、アルコール/水は混合した時に発熱する。そのような系では当然、混合HSPは単純な足し算では合わない。
そうした検証が必要ではあるが、通常では思いもしない混合溶媒でダメージを受けてしまう現象に対してHSPは有効である。
ニトリル・ブタジエン・ゴム(NBR)がガソリンとエタノールで膨潤してしまうことも同様に理解できる。
マニュアルにはdiethyl sulfideもbutanolもPMMAの貧溶媒であるが、混合溶媒では溶解するとある。ここで試したところ、diethyl sulfideは溶解球の内側にいる。
当たり前の事ではあるが、HildebrandのSP値では何も解らない。(混合SP値が体積平均として)
2012.5.7
ユーザーからの質問で多いのが、溶ける溶媒が殆ど無い場合どうやってポリマーのHSPを求めるか?というものだ。
例えばフッ素ポリマーのHSPはフィルムを作り、溶媒に1週間浸漬しテンシロンを測定し、引張強度の低下率でScoreを決めHSPを決定したというような例がある。
エポキシ樹脂など(こちらの記事を参照)では、膨潤度などから求める。
ポリマーを細かく粉砕してガスクロのカラムに詰めてインバース・ガスクロを測定(Acta Chromatographica 20(2008)1, 1–14)している例もある
。
エンジニアリング・プラスティックの耐ストレスクラッキングを測定した例から求めるのもひとつの方法だ。
ポリマー同士の混合がどうなのかはこんな調べ方をする。
HSP距離も大事だが、ポリマー同士のSphereどのくらい重なっているかも大事になる。
(計算する機能はHSPiPにも搭載されている)このプログラムはHTMLの手習で作ったが公開はしていない
塗料などの顔料分散について検討したいなら、こちらの資料が役に立つ。
ドナー/アクセプターを含めた顔料分散
2012.5.31
ある海外のユーザーからポリマーをYMBを使って計算するときに困ったことが起きると相談を受けた。
彼らの直接のターゲットは明かせないが、ポリビニルアルコールで説明しよう。
下のようなポリマーのHSPをYMBを使って計算しようとすると困ったことになる。
まず、ポリビニルアルコールの1-10量体のSmilesを準備する。
(ポリマーSmilesはこちらを参照)
それをYMBで計算すると、dH項がどんどん大きくなってしまう。
それはアルコールの数がどんどん多くなって砂糖のようになるので、YMB的には正しい。
ところがポリマーとしてみた場合に、重合度nのときとn+1でHSPは変わってほしくない。
さもないと上のようにOHを修飾した場合、修飾基の効果(数、種類)なのか、OHが減った効果なのかわからなくなってしまうからだ。
これは原子団の加算値と体積の加算値がずれている事に起因する。(何度も言うが低分子を扱うYMB的には正しい)
2012.6.15
ポリマーSmilesにXが複数あってもいいのかという問い合わせを頂いた。
計算値自体は問題ないが、多量体(X-mer)を作る際には問題になる。官能基がXをまたがないように作るのがポイントだ。
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メールの件名は[pirika]で始めてください
文献
[1] P. A. Small, J. Appl. Chem. 3, 71 (1953)
[2] 沖津 俊直、日本接着学会誌、vol.29, No.5, 204-211(1993)
[3] Hansen, Charles (2007). Hansen Solubility Parameters: A user’s handbook, Second Edition. Boca Raton, Fla: CRC Press.
[4] Emmanuel Stefanis and Costas Panayiotou, Int J Thermophys (2008) 29:568-585
[5] HSPiP: Hansen Solubility Parameter in Practice. http://www.hansen-solubility.com/
[6] Polymer Handbook(4th Edition);Edited by Brandrup, J.; Immergut, Edmund H.; Grulke, Eric A.; Abe, Akihiro; Bloch, Daniel R. ; John Wiley & Sons (2005)
[7] How to use HSP: HSPiP技術資料