2020.4.26改訂(2010.2.1)
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概要
H1N1の抗ウイルス薬の溶解度パラメータをまとめてみた。
これらの抗ウイルス薬が、もしウイルスの特定部位に溶解しやすいから、何かしらの作用を与えているのなら、意外にも多様性は低いようだ。
HSPが似たものは似た溶解性を示す。
逆も真なりで、薬剤耐性を持ったウイルスは、似たようなHSPをもつ薬剤にはやはり耐性を持つ??
こうした抗ウイルス薬と同じHSPを持つ化合物をデータベースから探してみた。
このページは、元々はタミフルのページでしたが、ページの中に、アビガン(T-705)の構造もあったので、改訂することにしました。
ご存知の様に、アビガンは新型コロナウイルスの治療薬としても注目されています。(2022.10 結局ダメだったようです。)
内容
タミフルの溶解度パラメータ
先日(2010年当時)、ChemSpiderのHPを見ていると、H1N1の抗ウイルス薬が4化合物ほどトップページにあった。
(このChemSpiderは化合物のSmilesをゲットする時など重宝するサイトだ。)
非常に興味深かったのでこれらの化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算してみた。
1:タミフル | 2:ザナミビル(リレンザ):第一三共 | 4:ペラミビル:塩野義 |
ハンセンの溶解度パラメータは蒸発潜熱に基づくエネルギーを、dD(分散項)、dP(分極項)、dH(水素結合項)に分解し、それを3次元ベクトルとして捉え、このベクトルが似たものは、似たものを溶解するという理論だ。
Hansen先生によれば、”Like Seeks Like” (似たものは似たものを探す)とも言う。
HSPiPソフトウエアーに、分子の構造をSmilesの式で入れて、Breakすると分子を構成する官能基に分解し、その化合物のHSPを計算してくれる。
NO | Smiles |
1 | O=C(OCC)/C1=C/[C@@H](OC(CC)CC)[C@H](NC(=O)C)[C@@H](N)C1 |
2 | O=C(O)C1=O[C@@H]([C@H](O)[C@H](O)CO)[C@H](NC(=O)C)[C@@H](/N=C(¥N)†††N)C=1 |
3 | O=C(O)C=1O[C@@H]([C@H](OC)[C@H](O)CO)[C@H](NC(=O)C)[C@@H](/N=C(¥N†††)N)C=1 |
4 | O=C(O)[C@H]1C[C@@H](/N=C(¥N)N)[C@H](C(NC(=O)C)C(CC)CC)[C@@H]1O |
ShotはHSPiP ver. 5.2.04のものだ。
- DIYを選択する。
- YMBタブを選び
- Smilesの構造式をペーストする。
- 計算ボタンを押し
- 結果のうち、HSPの値と
- 分子体積の値を控えておく。
結果を纏めると下の表のようになる。
dD | dP | dH | Volume | |
1 | 17.3 | 8 | 6.5 | 296.7 |
2 | 17.7 | 14.7 | 12.7 | 246.8 |
3 | 17.3 | 12.9 | 11 | 251.2 |
4 | 17.2 | 11.2 | 8.3 | 282.6 |
Average | 17.4 | 11.7 | 9.6 | 269.3 |
自分は薬学に対する知識は正直余りない。(薬科大学でよく教えられるなーと言われるが。。。)
従ってタミフル(Tamiflu)などの薬がどのようにウイルス(症状)に作用するかは知らない。
しかし、ウイルスには目も、耳も、鼻もない。
そこで、単純な指標”Like Seeks Like” (似たものは似たものを探す)を使ってみる事にする。
上記のHSPを見る限り、1と4、つまり、タミフルと ペラミビルのHSPはかなり近いと言える(緑色の大きな球の中の赤い球)。
また、2と3も似ている(水色の大きな球の中の赤い球)。
2011.4.25
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)がどのくらい離れていたら、似ていなくて、どのくらいなら似ているのかは初心者には判断が付きにくいだろう。
青い球(溶媒)をクリックすれば溶媒の名前が表示される。
赤い球(抗ウイルス薬)をクリックすれば薬の名前が表示される。
溶媒はHansen先生が最も広くHSP空間にちらばるように選定した85溶媒のHSPを3次元にプロットしてある。
似てる似ていないは、この一番広い「ハンセン空間上のどこに目的の化合物がプロットされるか」で判断する。
2020.4.26
アビガンはアミド結合とフェノール性の水酸基を持つので極性が高く非常に外れたところにある。
http://www.thedailystar.net/newDesign/swine_flu/news7.php
似たベクトルのものは一緒に居たがっている。
そうだとした場合、4つの抗ウイルス薬のHSPは
- dD=17.2〜17.7
- dP=8〜14.7
- dH=6.5〜12.7
の範囲に入るので、HSPのデータベース(約10000化合物)から、この範囲に入る化合物を検索してみよう。
全部で48化合物が候補としてあがる。
構造は全く違うが、溶解性は似ていると我々は信じている。
つまり、上でいう溶解球の中心がウイルスのレセプターのHSPに近いという考え方だ。
そして、レセプターのHSPに近い化合物はレセプターに溶けこんでくると考える。
この場合の近いというのはHSP距離のことで、これは以下の式で計算する。
HSP距離
HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5
(dDの前には4と言う係数が入ることに注意しよう。)
どんな化合物が候補として出てくるのかはHSPiPを実際に購入して試してもらうことにして、いくつかの例を示す。
候補の1番目はカプサイシンだ。
Hcode 17337 ChemSpider ID 1265957
dD=17.6, dP=7.6, dH=10.9, Volume=290.6
脂溶性の無色の結晶で、アルコールには溶けやすいが冷水にはほとんど溶けない。
摂取すると受容体活性化チャネルのひとつであるTRPV1を刺激し、実際に温度が上昇しないものの激しい発熱感をひきおこす。
この機構はメントールによる冷刺激と同様である。
また、痛覚神経を刺激し、局所刺激作用あるいは辛味を感じさせる。
体内に吸収されたカプサイシンは、脳に運ばれて内臓感覚神経に働き、副腎のアドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗及び強心作用を促す。(WikiPediaより)
自分の家族は全員インフルエンザにかかりました。
しかし自分だけはとうとうかかりませんでした。
自分は辛いものが大好きで、庭で唐辛子を育て、ラー油やタバスコを作って食べています。
もし、そんな統計があるなら、家族がインフルエンザにかかって本人だけがかからなかった人に、唐辛子の消費量を聞いてみたいものだ。
候補の2番目は香料に使われる化合物だ。
Hcode 17034 ChemSpider ID 82714
dD=17.4, dP=8.1, dH=10.2, Volume 211.4
ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド(Hydroxymethylpentylcyclohexenecarboxaldehyde)は合成香料の一つで、Lyral, Kovanol, Mugonal, Landolalの名称で販売されている。
ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒドは、石鹸、香水、アフターシェーブローション、そして制汗剤に含まれている。(WikiPediaより)
このにおいが好きな人とそうでない人で、感染率に差があるのだろうか?
3番目の候補はまだまともだ。
Hcode 21360 ChemSpider ID 9085
dD=18, dP=8.4, dH=12.8, Volume 162.2
塩酸エフェドリンは、交感神経興奮効果を利用した様々な用途に使われている。
現在では、主に感冒薬(風邪薬)を中心として、薬効をよりマイルドとした誘導体である dl-塩酸メチルエフェドリンが、気管支拡張剤として使用されている。(WikiPediaより)
これは漢方薬で風邪に使われる。Ephedra herba(麻黄)から抽出されるらしい。
中国での感染率と死亡率はどうなのだろうか?
最後の候補は、ほうれん草やにんにく、グリーンピースに含まれるという化合物だ。
Hcode 21272 ChemSpider ID 853
dD=17.2, dP=9, dH=13.3, Volume 125.8
メチオニン(methionine, メサイオニン)は必須アミノ酸のひとつで、側鎖に硫黄を含んだ疎水性のアミノ酸である。
血液中のコレステロール値を下げ、活性酸素を取り除く作用がある。ピルビン酸へと代謝する経路が存在するため、糖原性をもつ。(WikiPediaより)
この食材をよく食べる人はどうなのだろう?
ChemSpiderにも類似化合物を検索する機能はついている。しかし、これは官能基の種類と数によるもので、HSPiPの多様性は非常に興味深いと思いますがどうだろう?
ChemSpiderID | Smiles |
4442 | O=C(OCC)/C1=C/C(OC(CC)CC)C(NC(=O)C)C(N)C1 |
58540 | O=C(OCC)/C1=C/[C@@H](OC(CC)CC)[C@H](NC(=O)C)[C@@H](N)C1 |
21238810 | CCOC(=O)C1=CC(OC(CC)CC)C(NC(C)=O)C([NH3+])C1 |
21240894 | CCOC(=O)C1=C[C@H](OC(CC)CC)[C@H]([NH+]=C(C)O)[C@H](N)C1 |
22937727 | CCC(CC)OC1C=C(CC(C1NC(=O)C)N)C(=O)OCC |
23313034 | CCC(CC)O[C@@H]1C=C(C[C@@H]([C@H]1N[11C](=O)C)N)C(=O)OCC |
是非とも、自分で計算して試して欲しい。
最近の新聞にでていたが、ネギも効くらしい。
ネギに含まれる成分の一覧は無いのだろうか?
計算してみたいものだ。
(HSPiPの最新版は、今日現在まだ、version 2 updateなので計算結果、データベースサーチは同じになりません。)
Ver. 5.2のデータベースサーチの結果なので、少し結果が異なる。(2020.4.26)
もしかしたら、HSPがパンデミックを救うなんて事になったら面白いのに!
http://organicooking.blog68.fc2.com/blog-entry-5.html
ネットを見ていたら,こんな構造もいいらしい。
T-705の溶解度パラメータ知りたくないだろうか??
2020.4.26
T-705は富山化学だかが作った薬でアビガンという商品名で販売されている。
エボラ出血熱に効果があったとか、最近では、新型コロナウイルス(COVID-19)に効果があったとか注目されている薬だ。(2022.10結局ダメだったようだ)
アミド結合とフェノール性の水酸基を持つので極性が高く[dD, dP, dH]=[19.7, 19, 17.7] MVol=105.9になる。似た様なHSPの化合物を検索してもほとんどありません。
リード化合物としてはフェノールの部分をエーテルにした化合物のHSP類似化合物をFindMolした方が良いだろう。
第一三共のCS-8958の事が新聞に載っていた。(2010.2.27)
この構造はこういうものらしい。
ザナミビル(リレンザ) にエステル,エーテルつけたものです。
確かにもとの構造はdHが18と大きすぎる気がする。
一つエステルでつぶし,ひとつエーテルでつぶしたのだろうか。
HSPはタミフルに近づくに違いない。
新聞によると,タミフルの耐性ウイルスが出た時に,多様性のある薬をもつ事は重要だとか書いてあった。
でも,CS-8958のHSPがタミフルに近づいてしまったら,タミフルの耐性ウイルスはやっぱそれは嫌いなんじゃないか?
“Like seeks like” は逆も真なりで,結果が楽しみだ。
講談社の「分子レベルで見た薬の働き」平山令明著を読んだ。
タミフルとはずいぶん細かい設計をしたもんだと思う。
ここまでぎちぎちに設計してしまうと多様性が無くなってしまう。
(皆似たような構造に落ち着く。)
全く新しいリード化合物を探すならHSPぐらいがいいように思える。
(4月12日)今日は新聞の休刊日。
ネットで新聞(朝日)を見ていたら、帝京大医学部の新見正則・准教授が補中益気湯がインフルエンザの予防に役立つという記事が載っていました。
これはある病院の職員358人の半数に補中益気湯を飲んでもらい、残り半数は飲まなかった。
8週間後までに飲まなかった人が7人新型インフルエンザにかかり、飲んだ人でかかった人は1人だけだったそうです。
これは、まさに、カプサイシン、麻黄とかメチオニンを飲んだらどうなるか?
自分が知りたかった事を地でやってくれたようなものだ。
あながちむちゃくちゃではない証拠にちゃんとした医者でもこういうことする人が居るので安心した。
どんな構造なのか調べたら、カンゾウ由来のGlycyrrhizic acidやチンピ由来のHesperidinが効くらしい。
Hesperidinとカプサイシンの構造を比べて欲しい。
HesperidinのHSPは配糖体の部分をMeエーテルで計算すると、HSPは[19.2, 8.4, 15.5]になる。
これは塩野義の ペラミビルに非常に近い。
エフェドリンやメチオニンにも非常に近い。
もし左側のフェノール性の水酸基が無ければ、[19.5, 9.0, 11.8]ならもっと近い。
ツムラのHPでこんな発表もあります。
麻黄は体を温めるのでいいとあります。暖めるに関してはこちら。
それならカプシエイトを飲んだ人の新型インフルエンザの感染率も知りたくなる。
漢方薬のHSPも面白いものだ。
Glycyrrhizic acidは興味があれば自分で計算してみて欲しい。
smilesOC1C(O)C(O)C (OC2C(O)C(O)C (C(O)=O)OC2OC3 [C@] (C)(C)[C@@] (CC[C@]([C@@] (CC[C@]7(C)[C@@] ([H])6C[C@@](C)(C(O)=O)CC7) (C)C6=C5)(C) [C@@]([H])4 C5=O) ([H])[C@]4(C) CC3)OC1C(O)=O
こうした医薬品の設計にはlogPの値も欠かせない。
興味があればlogPの記事も参照して欲しい。
2010.9.23
国立感染症研究所の発表で,タミフルに耐性をもつものは,ペラミビルにも耐性をもつ事が明らかになった。
タミフルが[16.7, 7, 10] ペラミビルは[17.2, 8.3, 12.8]だからこの2つは非常に近い。
だが,タミフル耐性菌はリレンザ[18.1, 10.1, 18]には耐性をもたない。
これは距離が遠い。CS8958はリレンザの構造にエステルをつけた物だ。
従って構造的にはリレンザに近いが,HSP的にはタミフルに近い。
タミフルに耐性をもつウイルスがCS8958にも耐性をもつなら,HSPが効いているという論拠につながる??
面白くなってきた。
HSPiPの使い方その3:反応の副生成物を抽出除去する溶媒を探索する。
使い方が分かりづらいというユーザーにハンズ・オンで説明した。
その説明の改訂版。
豚は鳥インフルエンザにも人間のインフルエンザにも感染する。
そして、強毒性のインフルエンザが豚の体内でできあがって、それを蚊が媒介するかもしれないと言われている。蚊を家畜に近づけない為には?
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