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2012.9.7
私は、今、フランスの会社、アメリカの会社とDBE(2塩基酸、ジエステル)溶媒をハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使った評価に携わっています。
これは分子の両末端にカルボン酸を持つ化合物のエステル体です。
詳しいことはこちらの記事を参照にしてください。
彼らは詳しい製法は明かしてくれませんが、色々調べてみると、こちらの文献が元のようです。
廃ポリエチレンをリサイクルする方法です。
Oxidative Chemical Recycling of Polyethlene M. L. Trehy
反応条件やポリエチレンの種類を変えると、diacidの生成比率などが変わります。
プロセスの運転条件とその時の収率、生成比などが判ると面白い解析ができるのですが、残念ながらそれは見つかりませんでした。
代わりに、東北大学の論文を解析してみましょう。
こちらはポリ塩化ビニルをリサイクルするものです。
Polymer Degradation and Stability 67 (2000) 285±290 Chemical recycling of rigid-PVC by oxygen oxidation in NaOH solutions at elevated temperatures
硬質のポリ塩化ビニルを酸素と水酸化ナトリウム(NaOH)を使って、Oxalic acidとその他の水溶性カルボン酸を得るという論文です。(得られたシュウ酸もDBEの原料になりえます。)
時間の効果
NaOHの効果
酸素の効果
温度の効果
このデータから値を読み取り、一覧表を作ります。
実験データ
それでは、この重量減少率を、時間、NaOH量、温度、酸素分圧から予測する式を作ってみましょう。
このような変数が一つでないものの解析は多変量解析と呼ばれます。
重量減少率を知りたいのですから、これを目的変数と呼び、時間、NaOH量、温度、酸素分圧は説明変数と呼ばれます。
こうした多変量解析のうち最もポピュラーなものは、重回帰法(最小二乗法: Multiple Regression)でしょう。
簡単な説明は2011年講義資料にも書きましたが、Excelにも搭載されているのですぐに試すことができます。
この重回帰(MR)法を使って重量減少率の予測式を作ってみましょう。
weight loss% = 2.6852162*時間+-1.880147*NaOH量+0.30882597*温度+3.464859*PO2+-16.699718
となります。
式の意味は明快で、各説明変数の(平均的)効果が定量的に判ります。
例えば、時間を1時間から2時間にした時には、重量減少は時間の係数分、つまり2.6852162だけ大きくなります。
この重回帰の結果と実験値をプロットしてみましょう。
このように、相関は高くありません。
何故そのような結果になるかというと、もとのグラフから判るように、NaOH量、PO2はともかく、時間と温度は重量減少に対して直線で変化するわけでは無いからです。
このように重回帰法では、
* 項目間の相互作用がある場合、
* 項目の影響が非線形の場合、
正しい結果を与えないので注意が必要です。
今回のように非線形な現象を取り扱うには、ニューラルネットワーク法(Pirikaのこちらのページで説明)や非線形回帰式を用います。
Pirikaでは、様々な物性推算を行うため、ニューラルネットワークを初め、いろいろな解析用のソフトを自作しています。その中の非線形回帰計算ソフトを使ってこの現象を解析してみましょう。
weight loss% = -56.923496 + 2.3260145*(POWER((時間*584.7513+1),0.4085399)*POWER((NaOH量*0.61836386+1),-0.123191014)*POWER((温度*0.0014435912+1),2.6282134)*POWER((PO2*0.03379221+1),0.9536238))
という結果が得られました。
その結果と実験値をプロットしてみましょう。
結果が100%を超えるものが現れ、一見すると精度は低そうですが、重量減少は100%を超えることはありえないので、結果が100%を超えるものは強制的に100%にしてしまって良いです。
そうすれば広い範囲で精度よく推算できていることが判るでしょう。
通常の数学的な統計解析ソフトでは、こうした化学的にありえないという概念を導入できません。
例えば引火点が>110℃というデータは110℃と入れて推算式を作ったらとんでもない結果になりますし、水への溶解度も100%と書いてある値は自由混合であって値が100%ではありません。
これを正しく評価する解析ソフトは化学者が作るしか無いとも言えます。
この方法では項目間の相互作用は考慮していません。
実験の種類によってはそうしたものを導入しなければならないでしょうが、大元の実験のチャートを見ても、実験誤差が大きいように見えます。
また、非線形性を入れずに相互作用項だけから解析するソフトも作ってあるので、それで解析すると次のようになりました。
重回帰法よりはましであるが、やはり非線形性が重要なのでしょう。
どのレベルの計算をするかは、やっている本人にしか判らないでしょう。
このように、一度プロセスの運転条件とその結果を表す関係式を作ってしまえば、
どのような運転条件にした時に時間を最短にできるか、とか、
コスト(温度のコスト、NaOHのコスト、時間のコスト)を最小にする運転条件は?
なども簡単にシミュレーションできるようになります。
ここではグリーンソルベントの製造プロセスを例に上げましたが、どのようなプロセスでも応用できる大事な技術です。
ただし、現在シュウ酸の値段は$600-800/ton(中国品)です。
苛性ソーダは$500-590/tonなので、原料が廃プラスティックでただだとしても、塩ビからシュウ酸を作ろうとは誰も思わないでしょう。
焼却が選択されるでしょう。
最初のポリエチレンのプロセスとの差は明らかです。
このように、チャートをデジタイズして、関数に載せコンピュータで利用するというのは、クラシカルな化学工学とコンピュータを使った化学工学を結びつける上で重要な技術です。
Pirikaでは攪拌翼の混合特性のチャートをコンピュータにのせた例があります。
数式で載せるには永田の式など複雑な計算をしなければなりませんが、ニューラルネットワークを使えば簡単に数式化できます。
それでは、エーテルはどのように導入するのでしょうか?
多くの場合、エーテル系のグリーンソルベントはアルコール化合物にプロピレンオキサイド(PO)、エチレンオキサイド(EO)を付加させて合成します。
ノニルフェノールにEOを付加すれば界面活性剤が合成されます。
ライオン、花王など洗剤関係ではよく使われます。
ノエビア化粧品、メナード化粧品など化粧品用の保湿剤などの需要も多いです。
機械系では作動油と呼ばれる潤滑油にも使われます。
EOの重合体ポリエチレングリコール(PEG)は水にも完全に溶け、高分子電解質、医薬品の製剤関係、保冷剤などに使われます。
PEGは分子量が高くなると室温で固体になりますが、ポリプロピレングリコール(PPG)はどれだけ分子量が上がっても固体化しません。
PEGの固体化を防ぐためにPOを共重合し液状化するなどの検討が行われています。
この反応を行う際、花王特許(P2009-280543A) にあるように、
「アルカリ触媒により生成したアルコラートがPOのメチル基の水素を引き抜くことでPOの異性化が起こり、アリルアルコールやプロペニルアルコールが生成することが知られている。」
や、ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー.の特許(P2011-509930A)にあるように、
「商業的に製造されるプロピレングリコールモノアルキルエーテルは、少量であるが有意量のカルボニル不純物を含む。高いUV吸光度をもたらす種々のカルボニル不純物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アセトン、メトキシアセトン、及びメトキシブテノン)で汚染されている」
とある。
ライオンデルの特許では、こうしたアルデヒド、ケトン類を活性炭で吸着除去する精製法をクレームしています。
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アセトン、メトキシアセトン、メトキシブテノンの活性炭吸着が気相吸着と変わらないとして、2011年講義資料(活性炭の吸着)のページで吸着量を計算してみよう。
自由研究:
コストから考えて塩ビのリサイクルがありえないとすると焼却されることになります。
その際に問題になるのはダイオキシンの問題です。
Wikiを調べると、「800℃以上の高温での保持時間を長くし完全燃焼させ、300℃程度の温度の滞留時間を短くするため急速冷却し、活性炭により生成された微量のダイオキシン類を吸着しバグフィルターでろ過してから再加熱し大気中に放出している」とある。
ダイオキシン類の活性炭吸着を2011年講義資料と同様に計算し評価してください。
また、ダイオキシン類の毒性等量因子(TFE:toxic equivalency factors)を推算するモデル式をYMBを使って構築してください。
ダイオキシン・データ
どんな物性値が毒性に影響を与えているか考えてみましょう。
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