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2020.10.22
非常勤講師:山本博志
先日、JACI(新化学技術推進協会)の講習会へ参加してきた。
東京大学の船津公人先生の「我々の時代がやってくる! 〜データ駆動型化学研究の展開〜」という講演会を聴講するためだ。
ここで言う我々と言うのは、ケモ・インフォマティクス (化学情報学)を使って材料設計を進める研究者を指している。
先生は、この道30年だそうである。
自分は1995-1999年につくばの物質研に出向していた。
フロン代替化合物を、ニューラルネットワークを使って物性推算し、逆設計していた。
つまりこの道20年だ。
先生とはその頃からの付き合いで、先生の言う「我々」の片隅には私も入っていると自負している。
「所望の機能を持つ、新規材料・分子・デバイスを作るのに、様々なデータ・情報から”知識の地図”を作り全体最適化をナビゲートさせよう」と言う話。
どのようにデータ・情報を知識化するのかといえば、簡単に言えば次のようになる。
ターゲットは、異なってもやり方は同じ。
量子化学計算は1はできても2はできない。
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)では、この2.逆設計が肝になり、量子化学計算はそれを解釈するのに役に立つ。
しかし、量子化学計算は逆設計には不向きである。
この流れに従って、薬物設計、材料設計、触媒設計の例が示された。
薬物設計では、ドラッグネスライクと活性の"知識の地図化"を多次元の化学構造記述子空間を可視化することによって行なった例が示された。
材料設計では輝度向上フィルムの、材料組成だけでなくプロセス条件も含めた"知識の地図化"と目的変数が複数ある場合の逆解析法が示された。
触媒の例は示されなかったが、無機物の物性の"知識の地図化"を行う時に、記述子が384個もあるような系からモデルを作成する例が示された。
アリストテレスの時代から始まった経験・実証主義の第1のパラダイム。
ライプニッツ、ケプラー、ニュートン、マクスウエルなど、観測データから論理・法則を見出す第2のパラダイム。
非線形現象を計算機シミュレーションで解決する第3のパラダイム。
そして現在はデータ集約型の科学的発見が行われる第4のパラダイム=我々の時代がやってくる(きた)。
もう戻ることはない。どうすれば第4のパラダイムを根付かせることができか議論を進めなくてはならない。。
こうした内容の講演であった。
私は、名刺を持っていくのを失念して、pirika.comの名刺を着用して懇親会に参加した。
聴講者の方々はケモ・インフォマティクス系の方が多かった為なのか、「pirika.comの山本さん」が来ている。
「ハンセンの溶解度パラメータの山本さん」がきている。
と色々な方々が集まって来られ、お話ができて楽しかった。
そうした方々から後にメールを頂いたりして、思ったことを書いておこう。
御用とお急ぎでない方は、秋の夜長の酒のつまみにどうぞ。
コンピュータの歴史の中では、ハードができる前に人工知能の考え方ができていた。
結局はハード的な制約で手続き型のノイマン式コンピュータが勝ったわけだが、その頃を第一世代とするなら誤差逆伝播法が開発され大きく注目されるようになった1990年代が第2世代。
今は第3世代になるのだろうか?
最近のAIブームで素材産業各社は、MI推進室、AI推進室などを立ち上げている。
では、そう言う部署のリーダーはどのような方がなるのだろうか?
分子軌道計算(MO)、分子動力学計算(MD)などのいわゆる計算機科学を長くやってきた方が、リーダーとなることがほとんどらしい。
第2世代の頃、分子設計がブームになり活躍していた方達だろう。
産業界のAI,MIは現状、2つに分類されると思う。
工場の運転データ、営業などのデータはそれなりに集まり、成果を上げられると思う。
問題は材料設計系の分野だ。
第2世代の分子設計から、第3世代の材料設計とハードルは高くなった。
そんな予算をつけるのは「仏の顔も3度まで」だよっていう声が聞こえる。
リーダーは計算機科学系で、MOやMDでビッグデータを作成して、それをtensorFlowにかければ良いと信じている。
そう言うことを言っている大学の先生方も大勢おられる。
そうしたリーダー達が予算を握り、MO,MDのデータを元にケモ・インフォマティクスやればAI,MIになると信じている。
より高速なMO,MD用のコンピュータと人材、ソフトに投資を増やしている。「3度目の正直」で失敗は許されない。
困るのは、成果を出さなくてはならない若手研究員だろう。
分子設計ぐらいまでならMOでどうにかなっても、様々なマテリアルの集合体である材料を現状の技術で設計しろと言われましても。。。。と言うわけで船津先生の講演会に出席したのだと言う。
でも、船津先生は講演会では最初から、「MO,MD計算は、ケモ・インフォマティクスのキモである逆設計ができない」と言っている。
上司の求めに応じて成果を出す。その為には、上司の求める技術では無理。既に大きな投資をしているので方向転換はできない。
それでも結果を出せなければ、「正直者が損をする」。
囚人のジレンマというのは、wikipediaによれば次のようなものだ。
.本来ならお前たちは懲役5年。2人とも黙秘したら、証拠不十分で2人とも懲役2年
・片方だけが自白したら、そいつは釈放。黙秘した方は懲役10年
・2人とも自白したら、2人とも懲役5年
2人は相談できない。
それぞれ独立に自分の利益を最大にするなら、最適解は「互いに自白」が選ばれ懲役5年になる。
「互いに黙秘」なら懲役2年で済むのに。
囚人は強制的に「相談できない」状況にあるが、会社では相談すれば良いと思うかもしれない。
船津先生の講演に「ある組成開発で、目標に対してXX%の所まで来た。その延長で後YY%あげる努力をするべきか、他の処方は今はZZ%だけど、WW%まで上がる可能性がある。後者を選ぶべきか?」というのがあった。
そういう時にGP法(ガウシアン・プロセス法)を使って「学習を通しながら迅速に目標に到達」するのが大事というのがあった。
うーん。言っている事は分かるけど、現実には難しい。AA-WWは先生の説明では値が決まっていたので理解できる。
先ほど相談すればいいと書いたが、相談しても解決しないだろう。
上司と若手で、AA-WWが違う。
ここで譲ると懲役10年になると思う上司は、譲らないで、「ダメだったのは若手が自分の思うように動かなかったから」の釈放か、「他の会社もできていない」から無謀なテーマの懲役2年か、悪くても連帯責任の懲役5年を選ぶ。
囚人同士は同等だが、上司と部下は同等ではない。
自分も35年間の会社人生。
様々な資料を「捨てて後悔」するくらいなら「捨てないで後悔」する事を選んだが、それを捨てる段階になると大変な騒ぎで、「捨てなかった事を後悔」している。
結局、後悔というだけあって、先には立たないのが後悔だ。
「やって後悔」と「やらずに後悔」は永遠に続くので、後悔をするのを止めるのが唯一の解決方法。
後悔する暇があったら、反(対を)省みよう。
AIは反省はできない。
つまりAIの学習には「やった時の結果」と「やらなかった時の結果」の両方を必要とする。
そうして学習させて、囚人のビッグデータがいくら集まったとしても、次の囚人がどれを選ぶかは予測できない。
新井紀子先生の著書に「私は、山口と岡山に行った。」と言う例題があった。どんなにビッグデータを解析しても、山口が人名なのか地名なのかはAIには(人間にも)わからない。
それと同じだ。
MO,MD計算では逆設計ができない。
参加者は、その問題点は認識しながら、船津先生の講演会に出席している。
それでは船津先生のやり方を実践するのはどうしたらいいのだろうかとネットを調べまくって、pirika.comに流れ着いて来ると言う。
検索のキーワードを変えても、化学系であればpirka.comにたどり着いてしまう。
一度流れ込んだら2度と逃げ出せない船の墓場、サルガッソー?
ネット漂流の果てにたどり着いたpirika.comはかなり不思議なサイトと感じているらしい。
論文発表、学会発表などほとんどない。
サイトのオーナー本人には誰も会った事がない。
大学の非常勤講師をやっているようだが、サイトの内容はかなり企業寄りの内容。
こうした事をやりたいのに「この人何者?」となると言う。
まー、こちらも、ポリマーがやりたくて民間企業に就職したのに、訳のわからない研究やれって会社をほっぽり出されたりもした。
それなら、趣味のプログラミングを活かして、趣味の時間に、趣味のHPをやっている方が楽しい。
所属は出さないで好きにやっている。
予算があるわけでは無いので高価なソフトは買えない。
そこでソフトは自作。
高速なマシンがあるわけでは無いので、ソフトの側で工夫する。
有料の論文は使わないで、無料の特許を使ってデータセットを作る。
学会には所属していないので、最近の流行は追わない。
HP作成用のソフトも、もう10年前のものをいまだに使っている。
つくばの出向から戻った後も、こんな事を夜な夜な20年も続けていれば、十分ガラパコスになる権利はあると思う。(自分としては、独自の文化を発展させた、ジパングと思ってくれた方が嬉しいが。)
HPの作りも随分古臭いものになってしまった。
スマホなんて対応していない。
なんせ、スマホ自体購入したのが数年前、しかも電話機能しか使いこなせていない。
でも、逆にジパングの分、目立つとも言われる。
化学系でで画像検索すると特徴的に汚いExcelのグラフでpirikaのものだとすぐ分かるそうだ。
予算を握っている上司に、困り果てた若手。「ウチの上司の目を覚まさせてください」とか言われた。
囚人のジレンマの解決方法を丸投げか?
まー、このインターネットの時代、上司だってネットを検索した事ない人はいないだろうし、pirikaに遭遇した事も無い化学系研究者は少ないだろう。
そして、pirikaの記事を読んでも変わらなかったのなら、誰が話しても目は覚めない。
だいたい、目を覚まさないで寝ているうちに自由にやった方がいいと思う。
寝ているトラを起こすなって言うじゃ無いですか。
寝たままお亡くなりになる(定年退職)こともあるわけだし。
今は多くのソフトがフリーで手に入る。
iPhoneですら昔のCrayのスパコンより早い。
論文もネットで公開されているものが増えた。
いい時代になったと思う。
まさに「我々の時代がやってきた」だ。
それなりの速度のPCを自己啓発用に投資すれば、気兼ねすることなく自由にできる。
そうした組織の上の人の肩を持つわけではないが、それが会社のDNAというものだ。
ある上の立場の人がいる。
その人がグループ員の誰かを引き上げようと(採用でもいい)したときに、誰を選ぶか?
自分の成功体験に基づき、「こうすれば、こう偉くなれる」と言う道筋が描ける人材を選ぶ(さもないと責任持てないと感じる)。
つまり、自分に似た人材を選ぶ。
そうしたDNAは連綿と続く。
化学情報学で偉くなった人は、化学情報学を学んでいる若手を選ぶだろう。
だけれど、船津先生が30年かけて努力して、やっと「我々の時代がやってくる!」と言っているくらいで、それで偉くなる人が出てくるのは、まだ先のことだろう。
その時問題になるのが、ドン・キホーテの遺伝子だ。
MO,MDなどで画期的な成果を出している上司はさらに偉くなって、そのポストは同じDNAを持った人に変わっていく。
これは、これで良い。
その技術に応じたテーマがある正常な新陳代謝だ。
テーマ次第でポストに滞留してしまったドン・キホーテが困ってしまう。
そのテーマにはそのDNAではダメなので滞留してしまう。
滞留しながら延々と自分のDNAを垂れ流してしまう。
その撒き散らされたDNAを変えてくださいと言われましても、それは無理な話だ。
腐ったりんごは箱から取り出さなくてはならない。
でも箱の多くのリンゴが腐り始めたら、大丈夫なほうのリンゴを取り出さなくてはならない。
意識高い系の若手が、がん細胞になるしかない。
まー、組織からは抗がん剤注入されるので、うまく潜伏して増殖するのだろう。
栄養は外から吸い取って。
その間に外との競争に負けて、組織本体が死滅しても、「化学情報学」がきちんとできる人材は「我々の時代」がいくらでも吸収してくれる。
来年には、退職して個人事業主になる。
定年延長しないのかとも聞かれるが、Enough is enough!
やっと自由になれる。
「講演会があるなら是非教えてください」とも言われた。
うーん。講習会とかは色々企画し始めているのだけど、その度にメールを送るようなマメさはあまり無い。
pirikaで案内などは普通に出しているのだけど。気まぐれ更新のpirikaを頻繁にチェックする事を求めるのもなんだし。
新しい物好きなので、FaceBookもLinkedInもサービスが始まってすぐに登録しているが、いかんせん時間がないので、すぐ何もしなくなってしまっている。
ツイッターとかで、ハッシュタグつけてpirika見てって呟けばいいのかな?
それとも来年になればもっと頻繁に更新するようになるのかな?
まー、そんなにpirikaの山本の話が聞きたい研究者が一杯いるならなら、人寄せパンダとしてJACIの講演に呼ぶように、会員の方達で団結すればいいのに。
ただ、パンダと言うものは、遠くでみる、さわれないもの。
参加者が少なくて困っている主催者側が人寄せしたいならともかく。
聞きたいことが既にpirikaにあって、それを読んで重要を認識しているなら、わざわざ講演会に呼ぶ必要性がどうにもわからない。
名刺交換が大事なら、プリントアウトできるように名刺をpirikaに載せておこうかしら。
あちこちから講演会に呼ばれ、その収入で老後2000万円資金もウハウハ安泰という夢は持っていない。
私が夢見ている講習会は、見て、触って、体感してとpirikaと相補的なものだ。
そんな夢では、不特定多数を相手にするのは無理だ。
SNSに乗り遅れて、情報難民になってしまった世代の私に、「HPにこう言うアイテム置いて、こう言うハッシュタグつけて呟いてください」「講演会はこんな風に」「講習会はこれが受けます」って言うところまでやってくれるAIは誰か作れないものだろうか?
学生とかを持たない弱みなのだろう。
船津先生が主催されている「CACフォーラム」。
お聞きしたところ、人材難で縮小傾向だとか。
あれだけ大勢の聴衆を集められる、本家本元の船津先生のとこですら、縮小傾向なのだから、今更pirikaの山本の話をJACIでやってもなーと思う。
それに、JACIは山本は呼ばないだろう。学会や公的機関にとってPirikaは異質ながん細胞そのものだから。
船津先生にお聞きした。「今、会社で新人を一人取るなら、データ・サイエンティストと化学をきっちり学んだ学生とどちらを選んだ方がいいと思いますか?」先生の答えは「今の段階では、まだ化学をきっちり学んだ学生かな」。
私の認識も同じで安心した。
私は、BASIC(+機械語), C、C++, JAVA, C# JavaScriptときているので、なんとなく、Python(ニシキヘビ)は異質に感じていた。
まーそろそろ新しい言語を覚えようかとtryしてみると、何故最近の流行りなのかよくわかった。
計算機なんて所詮、四則演算と論理演算しかできない。
そしたら後は分岐ぐらいを覚えればプログラム言語の習得は終わりである。
必要に応じてファイル操作やらなんやらは、サブルーチンをネットから拾ってきてくっつけるだけだ。
こんな事を言ったらIT系やゲーム系のプログラマーに怒られるかもしれない。
でもpirikaにあるプログラムは全部その程度の素人プログラムでできている。
余りに恥ずかしいのでソースコードは公開しない。
自分にとってのプログラムとは、自分の持っている化学の知識をどうしたら「そんなことしかできない電卓」で表現できるか?と言うことに尽きる。
電卓機能ぐらいしか使わないのであれば、後は速度とメモリー、対応できるマシンのOSぐらいの問題で、どの言語を使ったって大きな違いはない。
それでも昔はメモリーが少ないのでケチケチ使うことを覚えたり、非力なマシンで効率をあげるにはとか考えた。
でも、最近はそんなことも考えない。
だからPythonを覚えるのも苦ではない。
でもそこでPythonに異質なものを感じたのは、要はこの言語は電子ブロックのようなものなのね、と感じたことだ。
自分が小学校5年生ぐらいの時に、クリスマスだかなんだかに親が電子ブロックを買ってくれた。
そりゃー楽しかった。ラジオを組んだりお風呂の水位計を組んだり。(自分も子供に復刻版の電子ブロックを買ってやったけど受けなかった)
中には電子ブロックでインスパイアーされてその方向に進んだ人もいると思う。
でも、ブロックの意味や接続の意味まで踏み込まなかった私は、単なる中がブラックボックスのおもちゃで終わってしまった。
すでに存在する化学系(もちろんそんなものだけに限らないが)のライブラリーをPythonで接続すると、化学系のアプリケーションが作れて、そこに化学系のデータを放り込めば、中身はわからなくても結果が出る。
化学系データサイエンティストの出来上がり。
いやー、いい時代になったものだ。
学生は例外だらけで物理のように体系化できない小難しい化学をものにしなくても最先端の研究ができる。
大学の先生は学会発表や論文が一杯かける。
企業はそうした学生を取れれば生産性が上がる。
皆んながHappyになれる。
では、上からは理解されず、下からは突き上げられる今回参加したような世代は、サルガッソーを彷徨い続ける?
うーん。そんな事にはならないだろうな。先生の言う「我々の時代」の我々は、化学をよく理解していると言う前提があるから。
私が「今一人選ぶならデータ・サイエンティストよりしっかり学んだ化学系」と言うのは次の理由だ。
促成栽培されたデータ・サイエンティストに化学教えるのと、しっかり学んだ化学系にデータサイエンスを教えるのでは、圧倒的に後者の方が楽という事だ。
そして、機械学習というのは、機械に学習させる事だ。
教えるのは誰?
もう人間が教えるのは無理。
ビッグデータをあげるから勝手に学習して!で済む分野があるのは確かだろう。
自分のやっている分野がそうした分野だと思うなら、早めに転職した方が良いだろう。
アトムのような汎用化学系AIが本当にできたら、上の世代も、速成栽培のデータ・サイエンティストも、中間層もいらない時代になるという事だ。
自動車保険とか、最近では銀行もそれに近づいている。
それでは、誰がアトムにものを教えたのだろうか?
お茶の水博士?
自動運転のAIには、誰が教えるのだろう?
運転のプロ中のプロ、F1レーサー?
何故、人々はAIの進歩を恐れるように見ているのだろうか?
僕がAIに教えるから、僕に特化して、僕が気がつかないことをアドバイスするAIに育って!というなら、AIの進歩はこんなありがたいことはない。
能力で言えばサイボーグ009は加速装置しか持っていない。
それは002も持っていて、さらに飛べもする。
でも009は元F1レーサーだ。高速で動いた時の、危険予知、状況判断、対応力を持っている。
同じ能力を与えられても結果は変わる。
漕ぐ力の半分をアシストしてくれる電動アシスト自転車のように、漕ぐ力の高い研究者はAIが進歩したら得るものも多くなる。
自分がアトムよりサイボーグ009の方が好きなのは、自分はロボットのアトムにはなれないけど、機能強化されたサイボーグにはなれるからだ。
でも痛いのは嫌だから機械を体に埋め込むのはヤダ。
ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじのような、AIアシストが理想形だ。
私は大学の講義で「後、40年AIに仕事を奪われないようにするには今なにを学ぶべきか」に沿って教えている。
でも、アトムはともかく、サイボーグ009やゲゲゲの鬼太郎は今の学生には通じない。
「そこで、リターンキーを押して」「先生、リターンキーって何ですか?」
他の先生にこぼしたら、「しょうがないですよ。iPadにはリターンキーありませんから」と言われた。
「授業にはコンピュータを持ってくるように」と言うと、iPad持ってくるような世代だ。
何時、ESCキーを押そうか考え始めている。(こんな冗談も通じるのは年寄りだけだろうけど)
今回の船津先生の講演会は時間が変更になった。
他の先生の講演会とブッキングしたらしい。
そちらは、MI(Materials Informatics)などを取り扱えるデジタル人材を育成しようというプロジェクトで、統計解析ソフトRなどを勉強するらしい。
私は、数学的な才能が無いので化学の道を選んだ。
理科系なら何でも大好きだったが、物理は数学的才能が必要そうなので、化学か生物、地学しか選択肢はなかった。
結局は化学を選んだ。社会人になって1990年から1991年にかけて、カルフォニア工科大学のGoddard先生のところに留学した。
先生はご存知のように分子軌道法計算の大家だ。
今みたいに電子メールが無い時代、留学も大変な時代だった。
英語のできないのは自己責任だけど、CALTECHはシュレジンガー方程式を空で言えるような学生がゴロゴロいて先生と議論していた。
高分子系の実験化学者が入っていかれるような状況ではなかった。
でも、逆に言うとそうした学生は数式で説明できないことに関しては全く無力な事にも気が付いた。
そこのところにしか生きる道はないと思ったのが留学の成果ではある。
そんな自分が非常勤講師として化学系の学生に教える時には数学は大事だよって言うのだから自分でも笑ってしまう。
「データ・サイエンティストと化学者どちらを選んだ方がいいか?」データ・サイエンティストを統計のできる学生に入れ替えてみても、私の答えは変わらない。
化学ができてデータサイエンティスト、化学ができて統計もと、先に化学がつくならともかく。
私は数学だけでなく英語も大っ嫌いで勉強しなかった。
何故かと言えば、自分が子供の時に読みふけっていたSFでは、将来には自動翻訳機でどんな宇宙人とも会話できるようになっているはずだからだ。
でも化学系の英語は必要に迫られ何とか人並みになっている。
化学は好きでやっているので、必要に迫られれば、数学や統計もやる。
それが許された時代と言ってしまえばそれまでだ。
それなしに統計や英語を真剣に学べる最近の学生、若手は心底偉いと思う。
統計解析ができないよりは、できた方が良いに決まっている。
でも統計解析ができればいい研究ができるかと言えばそれは無理だと思う。
よく見て欲しい。化学*デジタル人材となっている。
掛け算である。
化学が0なら、デジタル人材の部分がどんな大きくても掛け算をすれば0になる。
逆に英語のレベルが低くても、今の時代、グーグル先生が助けてくれれば、英語の方はいくらでもかさ上げされる。
Aiでかさ上げできる部分と、実力をつけなくてはならない部分の見極めが大事になってくるのだろう。
Aiでかさ上げできる部分は、データ・サイエンティストだけでなく万人の能力を均等に引き上げてくれることを忘れてはならない。
本当に自動運転が実用化したら、運転技術の優劣なんて何の意味も持たなくなるのと同じだ。
電話の交換手、駅の切符切り, 過去にそうした技術はいくらでもあった。
デジタル人材のできる仕事は、一番AIと親和性が高い。
早く、こうしたデジタル人材が、グーグル翻訳ならぬ、グーグル統計を作ってくれることを望む。
自分の弱い部分を補ってくれるAIは大歓迎だ。
統計を必要に迫られ勉強してみると、統計が最強の学問と言われる理由がわかってきた。
いくらでも自分の都合のいいように説明できてしまう。
統計上、この母集団の結果がこうなる確率は90%以上。当たれば統計が正しく、外れればそれが10%なのか、そもそも母集団から外れると説明される。
化学の醍醐味は、1000に1つの例外が薬になったり、混ぜた時に1+1=2を大きく変える材料を見い出したできるところにあると思っている。
統計上の例外(逆に言えば数学的に予測困難なもの)を見出すところにあると思っている。
そして、確率など無関係に、見つけたもん勝ち。統計をいくら収めても、グラフェンをセロテープで見つける発想は生まれない。
統計が最強の学問と呼ばれるのは、説得力のある嘘がつきやすいからだと言うのも忘れてはいけないと思う。
私がなぜシミュレーションをするのか?と問われれば、答えは簡単。
理論に合わない誰も知らない例外を探すためと答えるだろう。
シミュレーションは理論に基づいている。
それが合わないなら、理論に穴がある。
その手がかりを与えてくれるシミュレーションは大事。
その後は、数学の得意な人が、色々説明してくれるだろう。
そちらは後よろしく。任せた。
もっと大きな手がかりを与えてくれるのが、その道何十年の現場のおっちゃん。
私が35年前工場実習で現場に入ると、自分も現場の方々以上に酒飲みで、飲み歩いて仲良くなった。
「山本くんは研究所より現場に来いよ」と誘われるほどに。
ある三交代の夜勤の時、分区長さんがXXXXレベルを落とすという不思議な操作をしているので理由を聞いた。
「なんとなく、全体が不安定なので、安定方向に動かした。夜事故を起こすと人が少なく対応ができないので、そういう操業をする。
理由なんて中卒の俺にわかるか!
理屈付けは大卒のお前が考えるものだろう」と言われた。
それりゃーまーその通り。
その夜いろいろ武勇伝を聞いた。「なんとなくヤバイと感じて、3交代の他の班に"今日は酒飲まず、スタンバッテいろ”と連絡して、本当に事故になったが、対応がスムーズに行き操業停止にはならなかった」とか。
微かな振動、ちょっとした音、匂い、なんとなくの不安感。そんなものによる判断は、当然外れることの方が多い。それが「また、狼がきた」ではなく、「あいつが言うなら、今晩の酒はやめておこう」になるには?
ベイズ統計理論を使えば、うまく生産できている確率*収益、事故を起こす確率x被害額とかでうまく説明してくれるだろう。
でも、35年間会社勤めをしても、現場のおっちゃんの感覚をどう扱ったらいいのか答えは出ていない。
事故の確率を知りたいのは無く、どうやって現場のおっちゃんは確率を下げているのか知りたい。
「ビッグ・データを元にAI制御の効率の良い最新鋭のプラント」とか聞くと現場のおっちゃんを思い出す。
「今日は、お会いして話ができて光栄でした。今一度、pirikaのwebページをよく読んで、頑張って努力します」そんなメールも頂いた。
うーん。そんなつもりではないのだけど。
ある将棋の棋士さんがこんな事を言っていた。
「努力と言うものは頑張ってやるものではない。息をするようにやるものだ」
頑張ってやらなくてはならない事は、辛い事、大変な事。
短期間なら、がーんとはできるけど。
「頑張って実力をつけてからではないと、恥ずかしくて先生にメールを書けない」
いいですね。その態度。
でも、頑張って実力がついた段階では、そもそも、先生にメールを書く必要がない。
昔読んだ童話か何か。
ある国の王様が、ラッパ吹きを募集した。応募した子供の中に、全くラッパが吹けない子供がいた。
王様は不思議がって何故応募したか尋ねた。
「ラッパを持っていないし、それが吹けるかどうかは、やって見なくてはわからないから」
子供の答え。
王様はその子を採用して、国1番のラッパ吹きになったとさ。
化学情報学なんて訳のわからない学問。ものになるかどうかは解らないけど、面白そうだし、とりあえず吹いてみよう。
うん。でも吹くためには、まず息を吸わなくちゃ。
pirikaのページは、息を吸って、吹いて読んで欲しい。。。
かと言えば、「pirikaのページの内容が再現できない。データを送るから計算して送り返せ」とか行ってくる方もいる。
まーそうした方のメールアドレスは、会社ごと迷惑にメールに放り込むように設定している。
私は王様のように寛容ではないと言うことだ。
もしpirikaにメールを送っても反応がないなら、自分の会社の誰かが、そんなメールを送ったのかもしれない。
そんなpirikaとは付き合いたくないと考えるのもしょうがないこと。
こんな文章を書いていれば、会社の上の人からは、疎んじられるだろう。
がん細胞になる気のある人の一本釣りでいいと思っている。
個人のメールから送るなり、色々考えよう。
MAGICIAN養成講座はそんな人たちへの講座だ。
色々書いたが、山本はずるい。若手と話せばこういう書き方になるが、年寄りと話せば、平気で逆のことを書いたりする。それを人は臨機応変という。
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