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2005.1.14
計算で反応性比を推算するにはどのレベルの非経験的分子軌道計算をすればいいのでしょうか?
まー、はっきり言って自分の学生時代はPC-9801でベンゼンのヒュッケルMO計算ができたというのが大ごとな話題になるくらいで化学系の卒業生はほとんどが実験系でした。そうした者にとって非経験的分子軌道計算の計算レベルをどのくらいに設定すればいいかは正直言って謎です。まー実験と同じで試行錯誤しながら計算レベルを検証してきた顛末記と思って読んでください。(内容については責任は持てません。)
溶媒の違い、開始剤の違い、重合条件の違いで文献値も大きく変化しまが今回は反応性比の文献値はこの値を使います。
r1 | StR | MMAR | ANR | VDCR | VCR | VacR | MalR | AMR | VFR |
St | 1.00 | 0.46 | 0.33 | 0.09 | 0.02 | 0.10 | 0.10 | 0.18 | |
MMA | 0.52 | 1.00 | 0.15 | 0.25 | 0.07 | 0.02 | 0.02 | 0.34 | |
AN | 0.40 | 1.20 | 1.00 | 0.60 | 0.04 | 0.06 | 0.00 | 0.95 | 0.005-1 |
VDC | 2.00 | 2.75 | 0.80 | 1.00 | 0.30 | 0.05 | 0.00 | 0.65 | 0.16 |
VC | 17.00 | 16.10 | 2.70 | 3.20 | 1.00 | 0.23 | 0.01 | 4.40 | 0.11 |
Vac | 55.00 | 20.00 | 4.05 | 6.70 | 1.68 | 1.00 | 0.00 | 9.00 | 0.25 |
Mal | 0.01 | 3.50 | 6.00 | 9.00 | 0.30 | 0.06 | 1.00 | 2.80 | |
AM | 0.75 | 1.69 | 1.40 | 0.85 | 0.12 | 0.10 | 0.02 | 1.00 | 0.01 |
VF | 24-44 | 6.00 | 11.60 | 3.50 | 43.00 | 1.00 |
こうした反応性比を再現するような計算をしたいと何も判らずにHF/6-31G**で計算をスタートしました。まず直ぐに判った事はスチレンとアクリロニトリルはラジカルもモノマーも計算が全然合わないという事です。
HF6-31G** | StR | ANR | VacR |
St | 1.00 | 0.00 | 1.22E-14 |
MMA | 29694586.87 | 28.19 | 0.03 |
AN | 93538.02 | 1.00 | 0.00 |
VDC | 13852426.34 | 62.58 | 0.02 |
VC | 95205378.32 | 153.23 | 0.16 |
Vac | 1383386471.98 | 615.97 | 1.00 |
Mal | 4896268.47 | 20626.79 | 0.01 |
AM | 14419276.22 | 31.65 | 0.07 |
VF | 2502519489.70 | 1841.68 | 3.23 |
オーダーが違うとかのレベルの話ではありません。しかしその2つを除くと例えば酢酸ビニルのラジカル(VacR)の反応はSt,AN以外のモノマーに対しては非常に良く合っていると言えます。そこで何も知らない悲しさで計算のレベルを上げれば改善するかもしれないとHF/6-311G**
でANとStについて計算してみました。
大はずれー
時間はすごくかかったけど全く改善しませんでした。そこで参考書を読むと(何故先に読まないのかは、まーそんなもんだということで)電子相関が関与するような系ではHF法では計算できないとあります。そしてMP2計算をしろとあります。
そこでMP2計算にトライをしてみた訳ですが、St-Stでは大きすぎて計算ができません。どうもメモリーとディスクの関係がよく判りません。メモリーは2GB、ディスクは100Gあるのだけどメモリーを増やせば言い訳でもないし、Maxdiskを増やせば言い訳でもないらしい。どうにもやり方がよく判らずMP2/6-31G**
は諦めてMP2/6-31Gでしかもアクリロニトリルと塩化ビニルなどの小さなモノマーに限って計算してみました。
これも大はずれー
MP2計算はそれなりに大きな基底関数と組み合わせないとそれなりの答えが出ないのかな? 時間ばっかかかって結果はHFと大差なしという結果になりました。
またまた参考書を引っ張りだしてきて読むと、大きな分子を計算するときは構造は低い基底関数で計算してそのエネルギーだけ高い基底関数で計算しなさい。ってあります
MP2/6-31G**//RHF/6-31G**
などと書くらしいです。うんこれに違いない。と思ってもこうしたタイプのジョブのサブミットの仕方がまたわかりません。サンプルが無いかと先生のホームページを訪ねるが駄目。またまたトライアンドエラーでがんばりました。特にメモリーとディスクの設定はどうやればいいのだろう? しかも何とか計算が終了すると負の振動が3つある!!!
HF/6-31G**
レベルではちゃんとした遷移状態でもMP2レベルでは負の振動がいっぱい現れてしまうみたいです。ここでFORCE計算をしているのはエントロピー項を求めて頻度因子を計算する為なのだけど、先生に相談したらこうしたやり方はdEだけで議論するやり方で、振動まで計算したいなら全部MP2/6-31G**
でやるしかないと言われてしまった。
うーん八方ふさがり
だめでもともとと、B3LYP/6-31G**
で再計算をやってみました。何故最初からこれを使わなかったのかと言うと、CACフォーラムで講演された先生から「B3LYPは安定な化合物の計算にはいいけど遷移状態はあまり良くない」と言われていたからです。実際自分の計算でも系は違いますがB3LYPでは全然実験値と合わない例がありました。
B3LYP | StR | MMAR | ANR | VDCR | VCR | VacR | malR | AMR | VFR |
St | 1.00 | 0.34 | 0.20 | 1.10 | 0.16 | 13.13 | 0.00 | 0.59 | 0.03 |
MMA | 0.30 | 1.00 | 0.70 | 0.13 | 0.07 | 0.05 | 0.00 | 0.61 | 0.00 |
AN | 0.05 | 0.09 | 1.00 | 0.11 | 0.03 | 0.01 | 0.04 | 2.13 | 0.00 |
VDC | 1.22 | 1.20 | 2.42 | 1.00 | 0.24 | 0.12 | 0.02 | 2.26 | 0.02 |
VC | 8.98 | 7.16 | 9.18 | 1.66 | 1.00 | 1.01 | 0.06 | 16.86 | 0.17 |
Vac | 20.36 | 5.69 | 5.86 | 1.61 | 2.66 | 1.00 | 0.02 | 11.42 | 0.29 |
Mal | 0.03 | 0.38 | 229.14 | 4.89 | 0.08 | 0.00 | 1.00 | 2.87 | 0.00 |
AM | 0.11 | 0.30 | 0.80 | 0.11 | 0.10 | 0.11 | 0.01 | 1.00 | 0.01 |
VF | 121.45 | 14.60 | 34.43 | 2.94 | 6.33 | 7.71 | 0.06 | 25.80 | 1.00 |
今回の計算ではStもANも何とか計算できています。ピンクは3倍(1/3)以内に入っているもの、黄色は実験値が不明のものです。結構良く計算できると思います。これとHF/6-31G**の結果を比べてみます。
HF6-31G** | StR | MMAR | ANR | VDCR | VCR | VacR | malR | AMR | VFR |
St | |||||||||
MMA | 1.00 | 0.10 | 0.16 | 0.03 | 0.00 | 0.63 | 0.01 | ||
AN | |||||||||
VDC | 0.57 | 1.00 | 0.27 | 0.02 | 0.03 | 0.76 | 0.01 | ||
VC | 1.48 | 0.72 | 1.00 | 0.16 | 0.05 | 5.55 | 0.08 | ||
Vac | 6.40 | 2.19 | 6.38 | 1.00 | 0.24 | 17.62 | 0.53 | ||
Mal | 0.53 | 11.48 | 0.70 | 0.01 | 1.00 | 1.37 | 0.01 | ||
AM | 0.42 | 0.12 | 0.20 | 0.07 | 0.00 | 1.00 | 0.01 | ||
VF | 10.36 | 2.48 | 13.93 | 3.23 | 0.26 | 29.79 | 1.00 |
HF/6-31G**
の計算結果でB3LYP/6-31G**
よりも実験値に近いものに水色をつけてみました。モノマーではスチレン、アクリロニトリル、MMA,AMなどがHF法では駄目です。つまり2重結合の隣に2重結合を持つような化合物にはHF法は駄目ということです。無水マレイン酸はほとんど差がないようです。この辺が不思議ですね。逆に塩化ビニル、フッ化ビニルモノマーなどはHF法の方がいい結果を出しています。VDCモノマーについてはほとんど変わらないという結果です。
まー全部B3LYPで計算するのもよし、含ハロゲン化合物はHFで計算するもよしといったところでしょうか?
もしマシンやメモリー、時間に余裕があるならHF/6-311++G**
レベルで計算すればMMAモノマーでもB3LYPより良く合うようです。
HF6-311++ | StR | MMAR | ANR | VDCR | VCR | VacR | malR | AMR | VFR |
St | |||||||||
MMA | 1.00 | 0.26 | 0.12 | 0.026 | 0 | 0.504 | 0.005 | ||
AN | |||||||||
VDC | 0.16 | 1.00 | 0.14 | 0.011 | 0.01 | 0.214 | 0.0061 | ||
VC | 0.85 | 1.72 | 1.00 | 0.136 | 0.03 | 3.392 | 0.0956 | ||
Vac | 5.69 | 7.90 |
7.45 | 1.00 | 0.18 | 14.86 | 0.5767 | ||
Mal | 0.42 | 19.07 | 0.455 | 0.007 | 1.00 | 0.844 | 0.0057 | ||
AM | 0.50 | 0.38 | 0.202 | 0.058 | 0 | 1.00 | 0.0089 | ||
VF | 8.87 | 8.43 | 15.51 | 2.32 | 0.28 | 22.6 | 1.00 |
ただ全体的な傾向は変わらないのでここまでやるかどうかは判断の分かれるところです。B3LYP/6-31G**よりも実験値に近いものにピンク、実験値が不明なものに黄色をつけてあります。
こうしたレベルの計算は早いもので1日、遅いと1ヶ月かかる事もあります。平均すると3-4日と言ったところでしょうか? (Mac G4 1GHzくらいで。Windowsでは同じHzで1.5倍ぐらい早い感じがします。)これを早いと見るか遅いと見るかはいろいろでしょうがMOPACのPM3の活性化エネルギーをニューラルネットワークで推算したように、このB3LYPの計算結果を再現できるようなニューラルネットワークを構築してみます。
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